在学生の声
他者を知り、人間を知り、社会を知り、そして未来へ
従来から「多様性へのまなざし」と「他者理解」を大切にしてきた人文社会学部は、2013年度より学部の共通理念として「ESD」(持続可能な開発のための教育)を掲げている。地球には多種多様な文化的背景と価値観を持つ人々が暮らしている。お年寄りや若者、障がいを持った人、仕事が見つからない人…。そんな人々の立場からは世界が違ってみえる。私たちの子どもや孫の時代のことも考えながら、よりよい社会を創りだすには、多様な人々へのまなざしが不可欠なのだ。人文社会学部では、こうした「他者理解」のプロセスを学ぶ科目を豊富に揃えている。そして、それを最も実感できるのが、フィールドワークやインターンシップなどの多彩な実習科目だ。
異なる考え方を持つ他者との対話は、人間を深く理解するということであり、社会の複雑さを実感することでもある。持続可能な未来社会のために、徹底した「対話」を通じて「多様性に開かれた」自分へと成長する。これこそが人文社会学部の魅力である。
平子さんが出会った他者
人間科学科(現心理教育学科)4年生の平子真里絵さんは、3年生の後期に行った実験がとても印象的だったと語る。前期にグループで一つの実験を行い、後期は自分が最も興味のある実験テーマを選ぶのだが、そこで彼女が選んだのは「解釈バイアスと対人感受性?認知的統制の相関」というテーマだった。
「解釈バイアスとは、簡単にいうと対人状況をネガティブにとらえがちな性向のことです。その値が高い人ほど他人に対して臆病で、何かあったときに冷静に対処できない傾向があるという仮説を立て、それを確かめるという実験でした」。
実験に必要な120名程度の被験者を集めるために、平子さんは人文社会学部以外にもさまざまな学部の教授に声をかけて協力を依頼した。
「この実験で分かったことは、同じ設問でも人によって返ってくる答えはまったく違うということでした。さまざまな考え方の人がいることを実感し、人間は本当に面白いと感じました」。
4年生になってから彼女は、怒りや悲しみの情動を過度に抑制する「ネガティブ情動表出の制御」と「解釈バイアス」の関連を、卒業論文の主なテーマに選び、このテーマの探求に挑んでいる。
山田さんが出会った他者
現代社会学科3年生の山田大輔さんは、2年生の社会調査実習で「原発報道とメディア」というテーマでグループによる社会調査を行った。その中で彼らは「インターネットの台頭によってテレビの役割が失われている」という仮説を立てて調査を行った。
「最初に行った学生へのアンケートの結果から、テレビには正確性?信憑性が求められていると推測しました。次にテレビの報道が正確かどうかを調べるため、当時話題になっていた、原子力発電所の再稼動反対デモの参加者と、その報道関係者から話を聞きました。また実際に福井県大飯町に行き、町議会議員にも話を聞きましたし、デモの現場にも足を運んでデモの参加者にも話を聞きました」。
デモの参加者の多くは「情報量が足りない」「事実が伝えきれていない」という不満を口にした。こうして多くの人に取材をする中で見えてきたのは、テレビの報道に求められるのは、正確性?信憑性よりも、むしろ「情報量」の重要性だということであった。同時に、もう一方のインターネットには「さらに深く、詳しい情報」が求められることも見えてきた。
「ただし、インターネットの情報はすべて正しいとは限らないため、インターネットの場合は受け手のメディアリテラシーが必要になります。だからテレビとインターネットは性質の異なるメディアであり、人々はテレビの情報をきっかけに事実に興味を持ち、さらに情報を深めるためにインターネットを使うという棲み分けがされており、決してどちらかの台頭によってどちらかが衰退するというものではないという現実を学びました」。
近藤さんが出会った他者
国際文化学科3年生の近藤摩歩さんは、「英米文学概論」という講義で少し変わった経験をした。
「この講義では、最後に今までに学んだ戯曲を下敷きにしたオリジナルの芝居を作り、演じることが恒例になっています。 学生ならではの柔軟なアイデアで現代の感覚を付加することで、より作品に対する理解が深まります」。
近藤さんたちのグループは、シェイクスピアの戯曲「じゃじゃ馬ならし」と、当時話題になっていた映画「モテキ」を組み合わせ、さまざまなタイプの女性がいた場合、最終的に男性はどういうタイプの女性を選ぶのかというテーマの芝居に決めた。
「脚本を書くために、男にとって女はどうあるべきか、女にとって男はどうあるべきかをみんなで何度も話し合いました」。
話し合ううちに、シェイクスピアの原作にある「おしとやかで女性らしい女性が愛されるべきだ」という恋愛観がとても古くさいものに思えてきた。
「そこで私たちは、『自分らしさを持つ自然体の女性が愛されるべきだ』という、私たちなりの恋愛観を作品に込めて上演しました」。
ちなみに、彼女が演じたのは、おしとやかなお嬢様タイプの女性。
「つまり、最後にふられてしまう方の女性でした」。
行政や各種団体から学ぶ
また、授業だけが他者を理解する場ではない。彼らは本学部のフィールドワークで学んだことを活かし、名古屋市や各種団体と一緒になって学ぶという機会を自発的に作り出している。
平子さんは本学部の「名古屋と観光」という授業を受けて、生まれ育った名古屋の魅力が全国に知られていないことを残念に思った。そこで名古屋の観光大使「キラッ都なごやメイツ」になったという。今では日本全国、さらに韓国などで行われる名古屋のPRイベントに参加し、お客様のおもてなしをしたり、ショーの司会を務める。
「たくさんの人と出会う中で、『人の考え方はさまざまだから』という言葉に救われることもあります」。
山田さんたちのゼミでは、1年生の夏休みのインターンシップを主催するNPO法人アスクネットにお願いし、インターンシップの事前研修で行うワークショップ用の教材を開発させてもらった。
「以前、先輩が僕たちのために作ってくれたホテル経営のゲームという教材があり、僕たちでそれをアレンジして新しく旅館を経営するというゲームに仕立てました」。
最も苦労したのは、現代社会学科ならではの視点として『他者理解』と『インターンシップに行く前に必要な知識?価値観』を同時に伝えるということだった。そのために彼らは、ホテルが「収益の追求」と「他者との共生」という矛盾した概念の中でどういう選択をするか、というゲームをつくった。
「実際には、他者理解とインターンシップの心構えを同時に伝えるのはとても困難でした。私たち自身が1年生を理解して、相手の立場でワークを考える重要さを痛感しました。またワーク開発がテスト期間と重なり、時間的に制約がある中でリーダーとしてチームを運営する難しさも学ぶことができました」。
近藤さんは、名古屋市が発行する情報誌「広報なごや」のESD(持続可能な開発のための教育)に関する特集ページの作成に参加した。これは本学の学生8名で取材から記事の執筆、編集まですべて行うというもので、彼女はその編集長の大役を担っている。
「ESDという言葉になじみが薄く、まずESDを理解するところから始まりました。藤前干潟を訪れ施設の方に話を伺ったり、たくさん資料を読んでみんなと一緒に勉強しました」。
その後、ESDの実例として栄の保育施設で取材を行った。市役所で名古屋市長に話を伺ったこともある。その後で原稿を書き、本学の芸術工学部の学生が紙面のレイアウトを担当した。
「この企画に参加したことで、特集ページのターゲットである小学生に情報を正しく、かつ分かりやすく伝える難しさを感じました。同時に、人に何かを発信することの面白さにも気づくことができました。社会で起きている問題に関心を持ち共有することは、とても大切だと思います。また、編集長としてメンバーをひっぱり、活動報告をしたり取材を受けたりしたことは良い経験となりました。限られた期間で何回も会議や取材を重ね、メンバーみんなで知恵を出し合ってできた紙面なので、多くの方々から『見たよ』と言っていただいたことが嬉しく、達成感がありました」。
2013年度からは、対話を通して現実に潜む課題を気づいていくための双方向型の授業として、新たにESD科目群というメニューが組まれ、人文社会学部の新しい軸となった。こうしたさまざまな機会を通して彼らは他者と関わり、自分を知り、成長していくのだ。
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