在学生の声
大学生は不思議な存在
「高校生とは違い、大学生は何を学ぶかを自由に選ぶことができます。また社会人とも違い、煩わしい利害関係などに悩まされることもありません」
経済学部3年生の下郷賢治さんは、そんな時間を送る大学生を「不思議な存在」と表現する。
「学業にしても遊びにしても、大学生にしかできないことがたくさんあります。迷って何もしないでいるのはもったいない。常識なんて関係ありません。迷う前に行動する。それが私のモットーです」
そのルーツは高校時代にあった。彼が通っていた高校はとても自由な校風で、友人もユニークな人物が多かった。そんな環境に刺激され、彼自身も後悔しない時間の使い方を実践し、最高の高校生活を送ることができた。その時の経験が「迷ったら行動する」という彼の生き方を形成したのだという。
しかし当時の彼の行動基準は、「自分にとって正しいか正しくないか」「面白いか面白くないか」という表面的なものだった。それが本学の経済学部で学ぶうちに、新たな視点で考えられるようになった。
「きっかけは、横山和輝准教授の講義で学んだ『機会費用』という考え方でした」
自分が何かをする時に必要となる『経費』に対して、選択しなかった場合に得られたはずの『利益』を加えたものを『機会費用』と呼ぶ。たとえば、ある人物が大学に進んだ場合の学費は経費だが、仮に同じ人物が大学進学をせず、就職していた場合に得られたはずの収入をさらに加えた額が機会費用に当たる。
「横山先生から、誰もが知っている女性アイドルを題材にしてその意味を説明してもらい、『そんな考えがあったのか!』と衝撃を受けました」
それ以降、彼は表面的な視点でなく、コストや時間、効率、さらにその行動によって自分や周囲が得る「喜び」の大きさなど、さまざまな視点から自分の行動を考えるようになった。
「同時に、不思議な存在である大学生という自分自身の特別な時間を、機会費用という考え方で見つめ直しました。そして、迷ったらすぐに行動すればよいのではなく、『今、何をすべきか』『最大の効用を実現するにはどうするべきか』まで意識して行動するようになりました」
仮説と検証の手法を学ぶ
3年生になり、下郷さんは河合篤男教授のゼミを選んだ。
「河合ゼミを選んだ理由は、最強の人になるために最も適した環境だと思ったから」
この場合の最強とは、物理的な強さのことではない。
「自分がしてきたことに自信と誇りを持ち、これからの人生を力強く生き抜いていく力がみなぎった人。それが、僕にとっての最強の人です」
河合ゼミでは、学生を3~4名のチームに分け、一つのテーマについてチームで調査?研究を行い、本合宿で発表するというスタイルでゼミ活動を行う。彼ら16期生に与えられたのは「変身する企業の研究」というテーマだった。
企業研究を行う場合、まず研究対象を定義し、議論を重ねながら最も有力と思われる仮説を導き、検証するというプロセスで研究を行う。だから最初に、下郷さんたちは『変身』の定義を考えるべく毎日自問自答し、チームで「変身とはどういうことか」について熱い議論を繰り返した。
「変身という抽象的な言葉について自分たちなりに考え、全員で真剣に論じられたことはとても貴重な経験でした。それができたのも、私たちが大学生という特別な存在だからこそだと思います」
仮説を導き出すと、次に検証を行う。ここでも、彼らはどのような調査をすれば有効なデータを収集できるかを何度も話し合った。
「アンケート調査が最も適しているのか、ヒアリング調査がいいのか、比較研究が必要なのか。それも全員で話し合って考えていきます。さまざまな手法がある中で、河合ゼミは、大学生らしく足を使ってオリジナルのデータを収集するという方法を重視する伝統のようなものがありました」
たとえば河合ゼミが、JAL?名鉄観光との産学連携による旅行商品開発プロジェクトに参加した時のこと。下郷さんたちのチームは、実際の空港利用者からアンケートを取るため、夏休みの間、足しげくセントレア(中部国際空港)に通った。
「どうしてもリアルなニーズの掘り起こしをしたくて、JALに無理を言って搭乗口の中まで入らせてもらい、アンケートを取ったこともありました」
最終的に彼らの手元に集まったアンケートは約1,000枚。メンバーでデータを分析し、議論を重ねて商品企画を練った。優れたチームの企画は店頭で商品として販売されるため、彼らは必死で頑張った。
とはいえ、目的はプレゼンに勝って企画が商品化されることではない。
「仮説と検証を繰り返すという手法は、社会人になっても絶対に必要になります。私たちが学ぶ目的とは、大学生のうちにこのプロセスを体験し、将来役に立つ知見を蓄積しておくことです」
中間発表の場で、彼らは居並ぶJALと名鉄観光の担当者を前に、「常識なんて関係ありません」の言葉にふさわしいミュージカル仕立てのプレゼンテーションを敢行した。先生や友人たちは拍手を送り、企業の担当者からも「学生らしいユニークなパフォーマンス」と評価されたという。
「経済学は座学だけじゃないんです。足を使ってデータを集め、エクセルで統計分析し、パワーポイントでまとめて発表する。それも経済学の学びの大切な要素だと思います」
そんな実践の繰り返しの中で、下郷さんは少しずつ、確実に成長を遂げている。
“すごい先生”から学ぶ
本学の経済学部の魅力を尋ねると、下郷さんは迷わず「河合先生をはじめ、先生がすごい人ばかりだということ」と答えた。
「ゼミの河合先生は、本当にすごい人だと思います。以前、分からないことを先生に質問したところ、間髪を入れず『それなら、ロジャーズが書いた『イノベーションの普及』の252ページを読んでみなさい』とアドバイスされ、感動したことがありました」
しかも、そんな先生と学生がとてもフレンドリーな関係を築いていることが、本学の経済学部のもう一つの魅力だと彼は考えている。
「当たり前のことですが、長く経済学について研究を続けてきた先生たちは、私たちとは比べ物にならないほど多くの知識を持っています。学生は、そんな先生からさまざまなことを学ぶ権利があります。経済学部の学生として、その権利を行使しないでいるのはもったいないと思うんです」
こうして多くの人に会い、さまざまな経験をしながら、彼は少しずつ「最強」に近づこうとしている。もちろん、そこに一切の「迷い」はない。
プロフィール
下郷賢治さん
経済学部3年
好きな言葉は「人は、素敵な出会いがあってこそ成長できる」。そんな彼が今まで出会った人物の中で尊敬するのは、本学のゼミ教員である河合篤男先生。そしてもう一人、日本を代表するファッションデザイナーの川久保玲氏。「身にまとうと不思議な力がみなぎる気がする」と、川久保玲氏が立ち上げた“Comme des gar?ons”の洋服を愛用している。