在学生の声
基礎研究のために名市大へ
足球彩票大学院の『システム自然科学研究科』は、学部を持っていない。だから多くの大学から数学や情報学?物理学?化学?生物学?運動生理学などを専攻した学生が集まり、生命情報と自然情報に関する多彩な基礎研究を行っている。
「基礎研究」とは、新たな法則や原理などの発見を目的とする研究のこと。一方、基礎研究の成果を元にして製品化に役立てる研究を「応用研究」と呼ぶ。ということは、基礎研究に携わる研究者は、自分の発見が世の中に役立つという喜びを味わうまで、かなり長い時間がかかるということでもある。ところが、博士後期課程3年の西淵剛平さんと同1年の横山悠理さんは、二人ともきわめて楽しそうに生命科学分野の基礎研究に取り組んでいる。
西淵さんは関西の大学で生命科学を専攻。当時、理化学研究所との連携大学院制度を利用し、学部4年生から中山潤一先生の下でエピジェネティクスの研究を始めた。卒業後は大学院に進み、引き続き、中山先生の分子生物学研究室で研究に没頭した。ところが彼が博士後期課程2年生の時に中山先生が本学に赴任することになり、後期課程も先生の下で研究を続けることを希望していた西淵さんも本学で学ぼうと決めたのだという。
「最初は何もない部屋で、中山先生と二人で200箱のダンボールを開梱するところから始めました。十分な研究ができるまで、半年から1年かかりました」
一方の横山さんは愛知県内の大学で生命科学を学ぶうちに植物の遺伝子に興味を持ち、大学院に進むことを決めた。県内で生物学の研究ができる大学院を調べ、植物生理学?分子生物学の木藤新一郎教授の研究が「とても社会貢献度が高く、自分に合っていそう」という理由でシステム自然科学研究科に進学することを決めた。
「もう一つ、名市大の大学院は規模が大き過ぎないため、自分のしたい研究が自由にできそうだったことも決め手になりました」
試行錯誤が楽しい
西淵さんが研究するエピジェネティクスとは、DNA配列の変化を伴わない、細胞分裂後も継承される遺伝子の発現?細胞表現のこと。生命の発生や細胞の分化に必須のプロセスで、近年話題になったiPS細胞とも深い関係を持つ。また細胞のガン化や生物の老化のメカニズムの解明につながると期待されている。
「近い将来、この分野からノーベル賞が出ると言われているほど注目されている分野です」
だが、そんな西淵さんの毎日は、きわめて根気が求められる取り組みの繰り返しだという。
「ひとことでいえば、仮説に基づいて実験を行い、データをとるという毎日です」
生命科学の実験では、研究者の手技の巧拙で実験結果が変わってしまうことも多く、仮説を実証できるデータを求め、西淵さんは試行錯誤を繰り返す。
横山さんも状況は似ている。
「植物細胞の分化には、aHiTAP1というタンパク質が関与しています。私はモデル植物といわれるシロイヌナズナを使って、このaHiTAP1の機能を調べています」
この研究の成果が、遠い将来、環境問題に寄与する植物の品種改良へと結びつく可能性を秘めている。しかし西淵さんと同様、彼の現状の研究もきわめて地道な作業に他ならない。
「実験の結果がうまく行かなかった場合、それが組み替えた遺伝子に起因するのか、原因が別にあるのか、あらゆる可能性を探りながら検証を繰り返します」
先人が築いてきた膨大な研究成果を組み合わせて仮説を立て、実験を行う。そこで得られた小さな発見を基点として新たな仮設を立て、未知の扉を開くための実験を行う。この手探りの作業が、最先端の基礎研究である。そして、この繰り返しこそが、二人が「最も楽しい」と語るプロセスである。
「道は一本ではありません。自分で考え、工夫しながら少しずつ研究を進めること自体が楽しい」と西淵さん。だから実験の結果が出なくても、ストレスに感じることはないのだという。
先生や友人の中で成長する
彼らを成長させているのは実験だけではない。二人とも、先生や周囲の人間との関係の中で研究者として大きく成長していることを実感している。
「大きな研究室だと教授の下に助教がいますから、院生は助教に指導してもらうことが多いのですが、名市大は教授と直接話す機会が多いのがいいですね」と西淵さん。中山先生からは学会で発表するための論文の要旨はもちろん、ポスターの効果的な貼り方、国際学会でのプレゼンテーションの仕方、受け答えの仕方まで細かく指導してもらったという。
「先生は学部生への講義の準備や多くの会議への参加もあって忙しいはずなのですが、いつも丁寧にきめ細かく指導してくれます」
横山さんは、先生はもちろん、同研究科の友人たちとの触れ合いからも大いに刺激を受けている。
「学部生の頃、周囲は生物系の友人ばかりでしたが、名市大では情報系の友人といろいろ話せる環境がとても新鮮で、研究にも役立っています」
西淵さんによれば「DNAのゲノム解析に情報技術は不可欠。だから、生物系の研究者が情報系の知識を持つことはとても重要」なのだという。
そして西淵さんは、今後もエピジェネティクス分野の基礎研究を続けようと考えている。
「日本語が通じない環境で、一度自分を試してみたいので、修了後はヨーロッパで研究を続けることも面白そうだと考えています」
一方の横山さんも、卒業後は研究を続けるつもりだ。ただし、今のような基礎研究にとどまらず、もっと人々の生活に直接関係する応用研究にもチャレンジしたいと考えている。
「大学院で学んだ遺伝子組み換えのノウハウを活かし、たとえば農業試験場のような機関で植物の品種改良に挑戦したい。そして、そこで得た知見を活かし、将来、再び大学に戻って研究を続けたいと思っています」
もしかすると、今日、彼らが扱っている小さな実験の“種”が、数十年後に世界を驚かせる画期的な発見になるかも知れないのだ。
プロフィール
西淵剛平さん
システム自然科学研究科 博士後期課程3年
滋賀県出身。名古屋に来て3年目になるが、大学から自転車で10分の自宅と研究室の往復の毎日で、まだ名古屋をゆっくり観光したことはない。趣味は料理。実は、時間を見ながら次にどんな食材を準備するかを考える「料理のプロセス」が実験のプロセスとよく似ているというのは、研究者の間では定説だ。「だから、毎日自宅で研究をしているようなものです」
横山悠理さん
システム自然科学研究科 博士後期課程1年
愛知県出身。ゼミの後、木藤先生や中国からの留学生を交えたゼミ生全員でコーヒーを飲みながら談笑する時間がお気に入り。国際性豊かな会話は、自分の視野を広げるのにも役立っていると感じる。得な体質の持ち主で、実験がうまく行かずにストレスがたまっても、本を読んだりゲームをしたりしているうちに、ストレスそのものを忘れてしまうとか。