在学生の声
人との出会いが未来をつくる
黒田さん(右)、中村さん(中央)、吉積さん(左)
足球彩票の芸術工学部(以下、芸工)は、芸術と工学という名が表す通り、さまざまな学問分野を内包している。
そのため、ここに集まってくる人々は学生も先生も多種多様。ひとくくりにカテゴライズするのは難しい。
しかし一つだけ共通しているのは、誰もがそんな個性豊かな人々と出会い、互いに刺激しあい、劇的に変化し、日々進化を続けているということだ。
黒田さん(右)、中村さん(中央)、吉積さん(左)
仏壇のデザインで入賞した黒田さん
産業イノベーションデザイン学科4年の黒田和花(くろだのどか)さんは、アートだけでなく工学も学べることが面白そうだと思い、芸工を選んだ。
「入学して最も驚いたのは、縦のつながりが想像以上に強いということでした」
2022年卓展
授業を通して先生から学ぶのは当たり前。しかし芸工では、他の学部と異なり同じ学科の学生が一つの大きな教室に個人のデスクを持っているため、先輩?後輩がコミュニケーションを日常的に取りやすい。そんな日々の会話の中で刺激を受けながら、誰もが成長していくのだ。
「一番の機会が、毎年夏に行われる『卓展』(たくてん)というイベントです」
卓展とは、4年生をリーダーとしてさまざまなジャンルのプロジェクト(=卓)を立ち上げ、学科、学年の枠を超えて制作に取り組む作品展示会。
2022年卓展
学生が主体となって自由に行う創作活動であり、学生は自分たちで考えてテーマを決め、グループを組み、先輩から知識を共有してもらいながら、ものづくりのプロセスを体験的に学んでいく。
「私はプロダクトデザインの分野で、現実のさまざまな問題を、モノや仕組みで解決するデザイン提案を行いました」
そんな黒田さん、3年生の時の卓展では新しいコンセプトの掃除機を発表している。
「掃除が済んだことを家族にお知らせしてくれたり、掃除に対する感謝の気持ちを伝えたりできる掃除機。こうした仕組みによって、親子や家族のコミュニケーション不足の解決策をデザインしたかったんです」
また1年生の頃から名古屋市が主催する産学連携によるワークショップ「FUXION」の活動をしていた黒田さんは、2年生の時にワークショップで知り合った仏具職人から、現代人にアピールする仏壇のプロダクトデザインを考えてほしいと依頼された。
さっそく周囲の学生に声をかけて自分たちでデザインコンペを開催。ここから生まれた16のアイデアスケッチのうち、仏具協会が3つのアイデアを選出し、実際にプロダクトとして形になった。
「その中に私がデザインした『影の音』(かげのね)という作品が含まれており、アイデアがアイデアのまま終わるのではなく、実際に製品になっていく感動を味わうことができました」
さらにこの作品は、クリエイターの登竜門といわれる2022年のグッドデザイン?ニューホープ賞でも入選を果たしている。
「大学に入って感じたことは、デザインとは感性的なものだけでなく、社会に根差した論理的なものだということです。芸工で学んだデザインする力は、社会に出てから武器にできると信じています」
黒田さんがデザインした作品『影の音』
デザインにめざめた中村さん
芸工3年の中村太哉(なかむらたき)さんは、もともとデザインにはさほど興味を持っていなかった。
それよりも高校時代にジャズのサークルに参加していた影響から「音」に興味を持ち、音響学について学ぶため芸工の情報環境デザイン学科を選んだ。
「情報環境デザインって何を学ぶ学科なの?とよく聞かれますが、あらゆる情報メディアを扱うので、自分がやりたいことは何でも学ぶことができる学科だよ、と説明することにしています」
芸工の特徴は北千種にキャンパスがあり、他学部とキャンパスが異なる分、特に縦のつながりが濃いことだと中村さんは言う。最初は音響を学ぶつもりでいた中村さんだが、先輩の話をきっかけにその後の進路を変えた。
「デザインって単純に絵を描くことだと思っていました。でも、たとえばスマホのボタンの形や大きさ、色をデザインすることでアプリの使いやすさが大きく変わるんです。これもデザインの一領域だということを先輩らに教えてもらい、デザインの面白さを知りました。」
この出会いから、中村さんの興味はUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)など、消費者と商品とをつなぐ経験のデザインへと大きくシフトチェンジすることになった。
3年生の時の卓展では、映画館に足を運ばせるためのサービス開発に挑んだ。
「映画館に誘ったり誘われたりするという行為を、ゲームにするアプリを企画しました」
中村さんの仮説によれば、映画館に誘う?誘われるという行為が増えれば、今まで興味のなかったジャンルの映画にも足を運びやすくなるに違いない。
卓展の打ち合わせをする中村さん(中央)
そしてゲームというプラットフォームを活用して、映画館への来場促進を行おうというのがこのサービスのコンセプト。
「私がアプリのデザインを行いました。完成までに試作モデルを何度も友人たちに試してもらい、ブラッシュアップを繰り返しました」
実際にこのシステムを映画配給会社へ売り込みに行くまでには至らなかったが、卓展で企画からデザインまでのプロセスを経験したことで自分の成長に繋がったと中村さんは言う。
プロの仕事を体験した吉積さん
建築都市デザイン学科2年生の吉積怜生(よしずみれい)さんは、幼い頃から続けてきたクラシックバレエの発表会で舞台に立ってきたため、劇場になじみがあった。
「その頃から、こんな大きな空間がどうやって生まれるのか不思議で、建築に興味を持つようになりました。でもガチガチの工学部に進む気はなくて、デザインや芸術という分野も一緒に学べる芸工に興味を持ちました。実務で建築家として活躍されている教員も多いと知り、名市大で学びたいと思いました」
入学してプログラミングやデザイン、芸術など、建築以外の分野を学べたことは楽しかった。が、その一方で戸惑いも感じていた。
「一日中、数学や物理計算をして、その翌日にはまったく違うデッサンの授業をする。まったく違うことを学ぶ繰り返しが、いつ自分の未来につながるのだろうと不安に思っていました」
1年生の頃はこうして座学中心に授業が行われていったが、前述の卓展では同学科らしいフィールドワークも経験している。
「私たちはいつも学内の製図室で作業をするのですが、新たな作業室をつくるとしたら、どこに、どんな空間をつくるかというテーマで創作活動を行いました」
吉積さんが卓展で作成した模型
実際につくるのではなく、架空の作業室をつくる。そのために実際にキャンパスの周囲を調査し、正門前に空いている土地を発見。この場所に決めた。
コロナ禍で学生が集まることができなかったため、リモートで何度も打ち合わせを行い、新たな作業室に必要な機能や構造を検討し、最終的には模型を作成して発表した。
「でも模型をつくることが目的ではありません。いつもは課題のテーマを先生から与えられていますが、今回はテーマ設定から自分たちで行い、実際に建築物をつくるプロセスを模索しながら疑似的に体験することが目的でした。その意味で、とても良い経験ができたと思っています」
しかし2年生の時の卓展には、吉積さんは参加していない。
「先生の事務所が参加する美術館のデザインコンペのお手伝いを優先していました」
この時、吉積さんはプランの検討から模型の作成まで一連のプロセスを経験できた。
「プロの建築家と一緒に仕事をして、授業で出される課題とはまったく違う緊張感や責任感に驚くと同時に、関わる人たちの知識量と熱量の違いに圧倒され、私もいつかそんなプロになれるのかなあと思っていました」
入学した時は、将来どう役に立つのか分からなくなることがあった。しかし、さまざまな出会いと経験を積む中で、すべての知識が結びついて一つのデザインとなることを実感し、将来的に自分の仕事にも役立つのだと気づいたという。
それぞれの未来
4年生の黒田さんは家電メーカーに就職が決まり、卒業後はマーケティングも学びつつ、ものづくりの上流で人に寄り添うデザインの指針立案に関わっていく。
3年生の中村さんはサービス系IT企業でUIデザイナーとなり、ITを活用した課題解決サービスの企画に携わっていくという進路を描いている。
2年生の吉積さんは、まだ進路を模索中。それでも先生の紹介で開かれた懇親会で有名な建築家と出会い、いろんな話を聞かせてもらううちに、やはり建築設計の分野に進みたいという志を固めつつある。
そしてこれからも、彼らはさまざまな人と出会い、多くの経験を積みながら進化し続けるに違いない。
プロフィール
黒田 和花(くろだ のどか)さん
芸術工学部 産業イノベーションデザイン学科4年
芸工を好きなところは、学生の個性が強く面白いこと、それを隠さずにお互い受け入れ合えるところ。そして、みんなが自分の好きなことをしながら暮らしていること。芸工ネーム(先輩から与えられる、芸工のキャンパス内でだけ通用するオリジナルのニックネーム)は「ミルミル」
中村 太哉(なかむら たき)さん
芸術工学部 情報環境デザイン学科3年
芸工を好きなところは、学生や先生とのつながりが多く、また面白い人が多くて刺激にあふれていること。芸工ネームは、出身高校が仏教系だったことから「シャカデース(釈迦でーす)」
吉積 怜生(よしずみ れい)さん
芸術工学部 建築都市デザイン学科2年
芸工を好きなところは、一般的な建築専攻の学校とは一味ちがう自由な雰囲気があること。また学生と先生との距離がとても近いこと。芸工ネームは「サマンサ」