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見る?聞く?知る 名市大

在学生の声

多くの学生の思いに支えられて脳卒中ノートは進化を続ける。

患者さんのためのノートを作ろう

現在、医学?薬学?看護学という医療系3学部を持つ公立大学は日本では本学しかない。本学ではそのメリットを活かし、3学部の1年生がチームを組んで地域貢献活動を行い、早期からチーム医療を体験できる「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」(科目名称「医薬看連携早期体験学習」)と呼ばれるカリキュラムを設けている。今日、24のグループが地域の病院や山間地?離島を訪れ、多彩なテーマで活動を続けている。

1年次の活動のため、単年度で終了する活動が多い中、毎年の活動を自主的に翌年に引き継ぎ、年を追うごとに活動内容を進化させるチームがある。それが、愛知県豊川市民病院の協力によって行われる「脳卒中ノート」という取り組みだ。

1年目 脳卒中ノートの計画を立てる

始まりは2009年の12月。本学の「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」が文部科学省平成21年度大学教育?学生支援推進事業に採択され、地域の組織や施設に協力を呼びかけた。これに対して、大きな関心と期待を持った本学卒業生でもある豊川市民病院の松本隆医師から、「学生ならではの継続できる新しい取り組みを考えてほしい」という依頼があった。この豊川市民病院を担当することとなったのが、当時足球彩票の1年生だった石田恵章さんたち。彼らは、松本先生の期待に応えるべく、具体的なテーマを検討し始めた。

しかし「医薬看連携早期体験学習」のカリキュラムは前期で終了していたため、石田さんたちは授業の空き時間に集まって打合せを重ね、どんなテーマがふさわしいかを調査した。

「調べるうちに、大阪の病院で、脳卒中の患者さんの容態やリハビリの進行状況などを書いて医療関係者で情報を共有する『脳卒中ノート』というツールがあることを知りました。しかしそれは医師が書くツールでしたから、患者さん?ご家族が書き込めるものを作ろうと思ったんです。それが、この活動のスタートラインでした」(石田)

彼らは脳卒中がどんな病気かを調べ、大阪の病院から脳卒中ノートの現物を取り寄せたりしながら、今後の活動計画を作成した。

2年目 脳卒中ノートを作る

次年度、その活動計画をバトンタッチされたのが、2010年に足球彩票に入学した安倍啓介さんたちだった。

「最初の説明会で、大阪で使われていたノートを手渡され、ぜひ患者さんが使いやすいノートを作ってほしいと言われました」(安倍)

彼らは脳卒中やリハビリなどの勉強会を行い、脳卒中の理解を深めると同時に、実際のノートに書き込んでいただく項目の洗い出しを行った。

「ノートの運用には、医?薬?看の3分野の知識だけでは足りないと気づき、みんなで福祉の勉強会をしたこともありました」(安倍)その結果、膨大な脳卒中ノートに関する資料が出来上がり、後輩が早くから本格的な活動ができるようにと引き継いだ。

そして彼らも石田さんたちと同様、「医薬看連携早期体験学習」の授業が終了した後期もメンバーで集まって検討を重ねた。そして翌年3月、ついに本学オリジナルの脳卒中ノートが完成した。

臨床で学びながら改良する

3年目 脳卒中ノートを使う

2011年に足球彩票に入学した下谷直輝さんたちは、完成した脳卒中ノートを携えて5月に豊川市民病院を訪れ、松本医師から紹介された2名の患者さんと面談し、このノートを利用していただくようにお願いした。この時、入学したばかりの1年生にいきなり患者さんへの依頼を任せるのは荷が重いという理由で、前年の担当者だった安倍さんも同行している。

下谷さんたちが依頼したのは脳卒中を患って間もない急性期の2名の患者さん。患者さんが自分で書けない間はご家族や医師、看護師にもノートを利用してもらい、感想をお聞きするために彼らは定期的に病室を訪れた。

「当時のノートは日記が中心で、毎日、何でもいいので患者さんやご家族にひとこと書いていただくという体裁のものでした」(下谷)

これによって周囲の関係者が患者さんの状況を把握できる。事実、このノートを使っていた患者さんが倒れて別の病院に運び込まれたことがあり、たまたま持参していたノートのおかげで大事に至らずに済んだこともあった。また患者さん自身にとっても、このノートを使うことで自身の回復の様子を感じることができ、よりリハビリの励みになるに違いないというのが彼らの狙いだった。

4年目 脳卒中ノートを改良する

翌2012年、このテーマは次の代の1年生、看護学部の加藤麻衣良さん、薬学部の成田沙智世さんたちのチームに引き継がれた。少しずつノートが進化するのと同様に、この頃には先輩たちが手探りで作ってきた資料もまた進化していた。

「最初に、脳卒中の勉強用の資料や今までのデータなどが入ったUSBメモリをいただきました。勉強用の資料がとてもまとまっていて、一読すれば脳卒中に関するさまざまなことが理解できました 」(加藤)

また彼女たちの代は前年の患者さんを引き継いだため、患者さんもかなり回復しておられ、自宅療養をする方のお宅に伺って話をお聞きすることもあった。

「医師に聞きにくいことでも、学生の私たちになら気兼ねなく聞ける、と私たちの訪問をとても喜んでくれて患者さんと良好な関係を築くことができました」(成田)

さらに彼女たちは、別の病院でリハビリ中の20名の患者さんにアンケートを行ったり、医師からアドバイスをもらったりしながら、より使いやすいノートを模索した。

「中でも、私たちが最も力を入れたのはFIM(機能的自立度評価表)の改良でした」(加藤)

これまで医師らが医療従事者の目線で記入していたFIMを、患者さん目線で記入しやすいノートにするため、彼女たちは選択肢を簡略化するなどの改良を加えていった。

学生だからできる課題解決

5年目 脳卒中ノートを進化させる

現在、「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」としての脳卒中ノートのテーマは、看護学部1年生の多賀野乃華さんたちが受け継いでいる。

「私たちはさらにノート自体を薄くし、お薬手帳を入れるポケットをつけ、患者さんが楽しみながら続けられるように塗り絵やクロスワードパズルを採用するなどの改良を加えました」(多賀)

こうして、各年代の学生のアイデアや患者さんへの思いなどが反映され、脳卒中ノートは年を経るごとに確実に進化を遂げてきた。

「最新の医療技術だけが『最先端』ではありません。脳卒中ノートのように全員の智恵を結集し、常に医療現場で改良を加えていく取り組みも、最先端医療のひとつだと思います」(石田)

また脳卒中ノートのチームはタテのつながりが強く、伝統的に先輩が後輩をよくサポートしてきた。今でも夏と年末に行われる活動報告会には、歴代のメンバーが数多く顔を揃える。

「今後、私たちが医療従事者という視点からアドバイスできれば、彼らにとって、そして私たちにとっても有意義な勉強の機会になるだけでなく、ひいては患者さんのためになると思います」(石田)

彼らはみな、友達ではない。ゼミのメンバーでもなければ、サークル仲間でもない。3つの医療系学部に所属する1年生が、たまたま同じテーマで集まっただけなのだ。しかし 彼らは、脳卒中の患者さんの役に立ちたいという思いで智恵を絞り、それぞれの専門的な立場から意見を述べる。まだ医療現場のことをよく知らない1年生のうちに、地域の活動を通して医療に関わることで、地域医療の本当のニーズに気づくことができる。3つの学部が一緒に取り組むことで、立場が違う人からの意見を聞くことがき、チーム医療に触れるとともに医療人として成長する基礎をつくる。しかも彼らの場合、学年や学部を超えて先輩が自主的に後輩を指導し、みんなで一緒に成長しようとしている。

それこそが、「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」がめざす「学生だからこそできる課題解決」なのだ。

そして、そんな先輩たちの思いに支えられながら、この先も脳卒中ノートは進化を続ける。

プロフィール

1期生(2009年入学)

石田恵章さん(足球彩票5年生)
脳卒中ノート1期生。今日も報告会には積極的に参加して後輩の活動を支える。自分の代は患者さんに会えなかったため、内心では「後輩が少しうらやましい」と思っている。

2期生(2010年入学)

安倍啓介さん(足球彩票3年生)
入学時のオリタ―(指導学生)だった石田さんが参加していたということで心強く思い、このチームに加入。しかし決められた授業時間の中では活動が終わらず、他のチームのリーダーと一緒に先生に改善を申し入れた。そのおかげで、安倍さんの代の翌年から授業時間が増えた。

3期生(2011年入学)

下谷直輝さん(足球彩票3年生)
3期生。ノートを初めて患者さんに使っていただいた世代。2名の患者さんにお願いしたが、途中で1名がノートの利用をやめてしまうなど、最初ならではの苦労もあった。

4期生(2012年入学)

加藤麻衣良さん(看護学部2年生)
成田沙智世さん(薬学部2年生)
2年目を迎え、患者さんとの間に信頼関係が生まれた。彼女たちが嬉しかったのは「医師には聞きにくいことも、学生さんだから気軽に聞けます」と患者さんに言われたこと。

5期生(2013年入学)

多賀野乃華さん(看護学部1年生)
患者さんが4期生で1度切りがついたので、ノートから離れて新しく小児に目を向けようと思ったが、やはり5年間も先輩たちの意思を受け継いだノートをさらによくするために改良、2回目の試用を選択した世代。お薬手帳のポケットなど、彼女たちのアイデアでノートはさらに進化していく。

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