がんに伴う筋肉量の減少を抑制するメカニズムを解明
研究成果の概要
足球彩票大学院理学研究科の山田麻未研究員と奥津光晴准教授は、筑波大学医学医療系の蕨栄治准教授、足球彩票大学院医学研究科の大石久史教授およびアイオワ大学(アメリカ)のVitor A Lira准教授らと共同研究を実施し、がん悪液質※1による筋萎縮を抑制する新たな分子機構を解明しました。
がん患者は、酸化ストレス※2や炎症性サイトカインなどの増大によりがん悪液質が促進し骨格筋量が減少(筋萎縮)します。がん悪液質による筋萎縮は、生活の質(QOL)の低下や生存期間の短縮に関与することから、これらを防ぐことは重要な課題です。本研究では、骨格筋に発現するp62/sqstm1※3は骨格筋の抗酸化物質※4の発現を促進することで酸化ストレスを抑制し、がん悪液質による筋萎縮を軽減することを初めて解明しました。
これらの結果は、骨格筋のp62の発現を調節する創薬の開発、栄養素の探索や運動プログラムの確立に応用することで医学や健康科学の分野への貢献が期待できます。この論文は、山田研究員を筆頭著者、奥津光晴准教授を責任著者として生物学の国際雑誌『The FASEB Journal』のwebサイトに2023年8月25日に掲載されました。
がん患者は、酸化ストレス※2や炎症性サイトカインなどの増大によりがん悪液質が促進し骨格筋量が減少(筋萎縮)します。がん悪液質による筋萎縮は、生活の質(QOL)の低下や生存期間の短縮に関与することから、これらを防ぐことは重要な課題です。本研究では、骨格筋に発現するp62/sqstm1※3は骨格筋の抗酸化物質※4の発現を促進することで酸化ストレスを抑制し、がん悪液質による筋萎縮を軽減することを初めて解明しました。
これらの結果は、骨格筋のp62の発現を調節する創薬の開発、栄養素の探索や運動プログラムの確立に応用することで医学や健康科学の分野への貢献が期待できます。この論文は、山田研究員を筆頭著者、奥津光晴准教授を責任著者として生物学の国際雑誌『The FASEB Journal』のwebサイトに2023年8月25日に掲載されました。
背景
がんによる酸化ストレスや炎症性サイトカインは悪液質を促進し筋萎縮を誘導します。がん患者における筋肉量の減少は、単なる身体活動の制限や代謝機能の悪化のみならず、QOLの低下や生存期間の短縮に関与することから、筋萎縮の発症と軽減の分子メカニズムを解明し予防や治療に応用することは重要な課題です。がん悪液質による筋萎縮は、酸化ストレスの増大による筋タンパクの分解の促進が原因の一つであることから、抗酸化物質を増加し酸化ストレスを抑制することで筋萎縮の軽減が期待できます。しかしながら、骨格筋の抗酸化物質を産生する分子機構と筋萎縮の抑制に対する役割は、これまで十分には明らかにされていませんでした。
研究の成果
この度、足球彩票大学院理学研究科の山田麻未研究員と奥津光晴准教授は、筑波大学医学医療系、足球彩票大学院医学研究科およびアイオワ大学健康科学部(アメリカ)の研究者らとの共同研究を実施し、骨格筋のp62は抗酸化物質の発現を促進し、がん悪液質による筋萎縮を軽減することを初めて解明しました。
骨格筋の抗酸化物質は、酸化ストレスを軽減し、筋萎縮の予防に貢献することが以前より報告されていました。抗酸化物質の産生は、細胞のストレス応答タンパクであるNrf2/NF-E2-related factor 2※5の核内移行の促進がその代表的な機序として知られています。しかしながら、骨格筋のNrf2の核内移行を制御する分子機構は明らかではありませんでした。そこで本研究では、細胞内に発現するp62に着目しました。p62はタンパク分解機構であるオートファジー※6を調節するタンパクとして広く知られています。一方、近年の研究では、p62はオートファジータンパク以外の様々なタンパクと結合や修飾することが報告されています。悪性細胞を用いた研究では、リン酸化したp62がKeap1/Kelch-like ECH-associated protein 1※7に選択的に結合することでKeap1へのNrf2の結合を阻害し、Nrf2の核内移行を促進することで抗酸化物質の産生を制御することが報告されています。そこで我々は、p62の発現を筋特異的に増強したマウスを作成し、抗酸化物質の発現を検討しました。その結果、骨格筋のp62の発現増強はNrf2の核内移行を促進し、CuZnSODやEcSODなどの抗酸化物質の発現を増加させることを発見しました。さらに、p62によるNrf2の核内移行の重要性を立証するため、作成した筋特異的p62発現増強マウスのNrf2を筋特異的に欠損すると、p62の発現増強によるこれらの抗酸化物質の増加は消失しました。このことは骨格筋のp62はNrf2を活性化することで抗酸化物質の産生を調節することを示唆しています。さらに、p62の発現増強による筋萎縮予防効果を検討するため、筋特異的p62発現増強マウスにがん細胞を皮下投与し、筋萎縮の抑制効果を検討しました。その結果、骨格筋のp62の発現を増強すると、酸化ストレスと筋タンパクの分解を抑制しがん悪液質による筋萎縮を軽減しました。これらの結果は、骨格筋のp62の発現を調節することでがん悪液質を軽減し、骨格筋量を維持できる可能性を示唆しています。
骨格筋の抗酸化物質は、酸化ストレスを軽減し、筋萎縮の予防に貢献することが以前より報告されていました。抗酸化物質の産生は、細胞のストレス応答タンパクであるNrf2/NF-E2-related factor 2※5の核内移行の促進がその代表的な機序として知られています。しかしながら、骨格筋のNrf2の核内移行を制御する分子機構は明らかではありませんでした。そこで本研究では、細胞内に発現するp62に着目しました。p62はタンパク分解機構であるオートファジー※6を調節するタンパクとして広く知られています。一方、近年の研究では、p62はオートファジータンパク以外の様々なタンパクと結合や修飾することが報告されています。悪性細胞を用いた研究では、リン酸化したp62がKeap1/Kelch-like ECH-associated protein 1※7に選択的に結合することでKeap1へのNrf2の結合を阻害し、Nrf2の核内移行を促進することで抗酸化物質の産生を制御することが報告されています。そこで我々は、p62の発現を筋特異的に増強したマウスを作成し、抗酸化物質の発現を検討しました。その結果、骨格筋のp62の発現増強はNrf2の核内移行を促進し、CuZnSODやEcSODなどの抗酸化物質の発現を増加させることを発見しました。さらに、p62によるNrf2の核内移行の重要性を立証するため、作成した筋特異的p62発現増強マウスのNrf2を筋特異的に欠損すると、p62の発現増強によるこれらの抗酸化物質の増加は消失しました。このことは骨格筋のp62はNrf2を活性化することで抗酸化物質の産生を調節することを示唆しています。さらに、p62の発現増強による筋萎縮予防効果を検討するため、筋特異的p62発現増強マウスにがん細胞を皮下投与し、筋萎縮の抑制効果を検討しました。その結果、骨格筋のp62の発現を増強すると、酸化ストレスと筋タンパクの分解を抑制しがん悪液質による筋萎縮を軽減しました。これらの結果は、骨格筋のp62の発現を調節することでがん悪液質を軽減し、骨格筋量を維持できる可能性を示唆しています。
研究のポイント
- がん悪液質は酸化ストレスを増大し筋萎縮を誘導するが、これを軽減する効果的な方法の確立は未だ十分ではない。
- 本研究では、骨格筋の抗酸化物質の産生を調節する分子機構の解明を目的とした。
- 筋特異的にp62の発現を増強するとNrf2の核内移行を促進し抗酸化物質の産生を増加した。
- 筋特異的にNrf2の発現を欠損すると骨格筋のp62の発現を増強しても抗酸化物質は増加しなかった。
- 筋特異的にp62の発現を増強するとがん悪液質による筋萎縮を軽減した。
- これらの成果は、p62を標的とした創薬の開発、栄養素の探索や運動プログラムの確立に応用することにより医学や健康科学の分野への貢献が期待できる。
研究の意義と今後の展開や社会的意義など
骨格筋の抗酸化物質の産生機構とその生理学的な役割を立証した本研究成果は、骨格筋生物学の基盤とした基礎研究の成果を医学や健康科学に応用する可能性が期待できる意義のある研究成果であり社会的意義も大きいと考えられます。
用語解説
※1 がん悪液質
がんに伴う体重(特に骨格筋)の減少や食欲不振を特徴とする症状。
※2 酸化ストレス
活性酸素種が過剰に産生された細胞、臓器や生体の状態。
※3 p62/sqstm1(p62)
タンパク分解機構の他、抗酸化機能や炎症応答などの調節にも関与する細胞内タンパク。
※4抗酸化物質
活性酸素種を分解する働きを持つ生体内で合成される物質。
※5 Nrf2/NF-E2-related factor 2 (Nrf2)
正常下ではKeap1と細胞質内で結合するが、ストレス下ではKeap1と結合せず、核内に移行して抗酸化物質の産生を促進する細胞内タンパク。
※6 オートファジー
細胞が自己の成分を分解する現象であり、代表的なタンパク分解機構。
※7 Keap1/Kelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)
細胞質に局在するタンパクで、Nrf2やp62と結合することで抗酸化物質の産生を制御する。
がんに伴う体重(特に骨格筋)の減少や食欲不振を特徴とする症状。
※2 酸化ストレス
活性酸素種が過剰に産生された細胞、臓器や生体の状態。
※3 p62/sqstm1(p62)
タンパク分解機構の他、抗酸化機能や炎症応答などの調節にも関与する細胞内タンパク。
※4抗酸化物質
活性酸素種を分解する働きを持つ生体内で合成される物質。
※5 Nrf2/NF-E2-related factor 2 (Nrf2)
正常下ではKeap1と細胞質内で結合するが、ストレス下ではKeap1と結合せず、核内に移行して抗酸化物質の産生を促進する細胞内タンパク。
※6 オートファジー
細胞が自己の成分を分解する現象であり、代表的なタンパク分解機構。
※7 Keap1/Kelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)
細胞質に局在するタンパクで、Nrf2やp62と結合することで抗酸化物質の産生を制御する。
研究助成
本研究は、科学研究費補助金 基盤B(15H03080, 18H03153, 21H03326)、挑戦的萌芽(20K21766)、若手研究(22K17733)、日本学術振興会特別研究員(20J15551)、鈴木謙三記念医科学応用研究財団、豊秋奨学会、中富健康科学振興財団、上原記念生命科学財団および足球彩票研究奨励費(2321103)の助成により遂行されました。
論文タイトル
Muscle p62 stimulates the expression of antioxidant proteins alleviating cancer cachexia.
著者
山田 麻未1、蕨 栄治2、大石 久史3、Vitor A Lira4、奥津 光晴1*
所属
1 足球彩票大学院理学研究科、2 筑波大学医学医療系、3 足球彩票大学院医学研究科、4 アイオワ大学健康科学部(アメリカ)
(*:Corresponding Author)
所属
1 足球彩票大学院理学研究科、2 筑波大学医学医療系、3 足球彩票大学院医学研究科、4 アイオワ大学健康科学部(アメリカ)
(*:Corresponding Author)
掲載学術誌
学術誌名 The FASEB Journal
DOI番号:10.1096/fj.202300349R
DOI番号:10.1096/fj.202300349R