スマートフォンのAIアプリで歩行中の手足の動きを計測し、ハキム病とパーキンソン病と頚椎症の歩き方を鑑別
歩行障害をきたしやすい疾患として、ハキム病(※1. iNPH)やパーキンソン病(※2)、頚椎症などが知られている。身体にマーカーを貼らずに頭から足先まで全身の空間座標をスマートフォンの動作解析AIアプリで推定し、身体の体軸平面に投影した手足の関節可動角度を計測する方法を開発。この方法を使って、ハキム病(iNPH)、パーキンソン病、頚椎症の歩行中の関節可動域角度と、その連動から各疾患の歩行パターンを鑑別。
研究成果の概要
2022年に開発したマーカーレス?モーションキャプチャー?スマートフォンAIアプリTDPT-GTを用いて、全身の3次元相対座標(※3)を推定した。さらに、3次元座標を矢状断面(※4)、冠状断面(※5)、軸位断面(※6)の体軸3平面へ投影した下肢の関節可動域角度からハキム病(iNPH)に特徴的な歩行である『すり足?小刻み?開脚歩行』を定量的に評価する方法を2023年に開発。
今回の研究では、下肢に加えて、上肢の矢状断、冠状断、軸位断の体軸平面に投影した関節可動域角度を抽出した。ハキム病患者122名、パーキンソン病患者12名、頚椎症患者93名と健常者200名から合計1491回分の直径1mの円歩行のデータを収集し、上肢と下肢の関節可動域角度やその連動から各疾患の歩行パターンを鑑別することに成功した。
本研究は、足球彩票、滋賀医科大学、東北大学、山形大学、株式会社デジタルスタンダード、信愛会脊椎脊髄センター、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センターの共同研究による成果である。
今回の研究では、下肢に加えて、上肢の矢状断、冠状断、軸位断の体軸平面に投影した関節可動域角度を抽出した。ハキム病患者122名、パーキンソン病患者12名、頚椎症患者93名と健常者200名から合計1491回分の直径1mの円歩行のデータを収集し、上肢と下肢の関節可動域角度やその連動から各疾患の歩行パターンを鑑別することに成功した。
本研究は、足球彩票、滋賀医科大学、東北大学、山形大学、株式会社デジタルスタンダード、信愛会脊椎脊髄センター、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センターの共同研究による成果である。
背景
歩行障害により転倒しやすい病気として、ハキム病(iNPH)やパーキンソン病、頚椎症、脳卒中などが挙げられる。これらの病気に特徴的な歩行パターン、例えばハキム病(iNPH)であれば、『すり足?小刻み?開脚歩行』、パーキンソン病であれば『すり足?小刻み?閉脚歩行』、頚椎症であれば『痙性歩行』、脳卒中であれば『片麻痺、ぶん回し歩行』が知られており、専門家が診断しているが、主観的な評価であり、評価者によって異なることが課題であった。
歩行を含めた動作解析は、従来、全身にマーカーを付けて、複数台のカメラを連動させて、マーカーの動きを3次元的に追跡するモーションキャプチャーシステムが用いられてきたが、これらは煩雑で検査に時間がかかるため、病院や介護の現場では用いることは困難であった。我々は、マーカーを付けることなく、多くの人が保有するスマートフォンで簡単に全身の動きを3次元的に追跡するAIアプリTDPT-GTを2022年に開発した。全身の3次元相対座標をXYZ空間上に設定し、矢状断面、冠状断面、軸位断面の体軸平面へ投影して2次元相対座標に変換する方法を2023年に開発した。さらに、歩行中の下肢の3次元相対座標を2次元相対座標に変換して、ハキム病(iNPH)に特徴的な『すり足?小刻み?開脚歩行』を定量的に評価する方法を同時に発表した。
今回の研究では、上肢の3次元相対座標を2次元相対座標に変換して、ハキム病(iNPH)に加えて、パーキンソン病、頚椎症患者の歩行中の四肢の関節可動域角度やその連動を観察した。
歩行を含めた動作解析は、従来、全身にマーカーを付けて、複数台のカメラを連動させて、マーカーの動きを3次元的に追跡するモーションキャプチャーシステムが用いられてきたが、これらは煩雑で検査に時間がかかるため、病院や介護の現場では用いることは困難であった。我々は、マーカーを付けることなく、多くの人が保有するスマートフォンで簡単に全身の動きを3次元的に追跡するAIアプリTDPT-GTを2022年に開発した。全身の3次元相対座標をXYZ空間上に設定し、矢状断面、冠状断面、軸位断面の体軸平面へ投影して2次元相対座標に変換する方法を2023年に開発した。さらに、歩行中の下肢の3次元相対座標を2次元相対座標に変換して、ハキム病(iNPH)に特徴的な『すり足?小刻み?開脚歩行』を定量的に評価する方法を同時に発表した。
今回の研究では、上肢の3次元相対座標を2次元相対座標に変換して、ハキム病(iNPH)に加えて、パーキンソン病、頚椎症患者の歩行中の四肢の関節可動域角度やその連動を観察した。
研究の成果
株式会社デジタルスタンダードと共同開発したiPhone用アプリ【Three D Pose Tracker for Gait Test (TDPT-GT)】(研究用非公開)を使って、ハキム病患者122名、パーキンソン病患者12名、頚椎症患者93名と健常者200名に直径1mの円を2周歩く様子を計測した。TDPT-GTアプリのAIで、頭から足先までの全身24点のヘソを中心とした3次元相対座標を自動推定した。この3次元相対座標を矢状断面、冠状断面、軸位断面の体軸平面へ投影した2次元相対座標に変換して、その座標の動作軌跡(75%信頼楕円)に基づいた関節可動域角度を計算した(下図)。
この結果、矢状断面における股関節や膝関節の可動域角度は、健常者>頚椎症>パーキンソン病>ハキム病の順に小さくなる、つまり足の前後へのふり幅が減少する傾向を認めた。一方、肩関節や肘関節の可動域角度は、健常者>頚椎症>ハキム病>パーキンソン病の順に小さくなる、つまり上肢のふり幅が減少する傾向を認めた。
軸位断面における足の左右への開き幅は、健常者<頚椎症<パーキンソン病<ハキム病の順に大きく、上肢の左右への開き幅は、健常者>頚椎症>ハキム病>パーキンソン病の順に小さくなる傾向を認めた。上肢と下肢の連動が最も強いのは、矢状断面における股関節と肘関節の可動域角度であった。この連動は、健常者>頚椎症>パーキンソン病>ハキム病の順に小さくなる、つまり上肢と下肢の動きがバラバラになりやすい傾向を認めた。
以上の結果から、ハキム病患者はパーキンソン病患者よりも、足の前後へのふり幅が減少することによって、すり足や小刻みになりやすく、左右へ開きやすく(開脚歩行)、上肢との連動が悪い(バランス障害)傾向を認めた。
軸位断面における足の左右への開き幅は、健常者<頚椎症<パーキンソン病<ハキム病の順に大きく、上肢の左右への開き幅は、健常者>頚椎症>ハキム病>パーキンソン病の順に小さくなる傾向を認めた。上肢と下肢の連動が最も強いのは、矢状断面における股関節と肘関節の可動域角度であった。この連動は、健常者>頚椎症>パーキンソン病>ハキム病の順に小さくなる、つまり上肢と下肢の動きがバラバラになりやすい傾向を認めた。
以上の結果から、ハキム病患者はパーキンソン病患者よりも、足の前後へのふり幅が減少することによって、すり足や小刻みになりやすく、左右へ開きやすく(開脚歩行)、上肢との連動が悪い(バランス障害)傾向を認めた。
研究のポイント
- マーカーレス?モーションキャプチャー?AIスマートフォンアプリで、四肢の動きを計測。
- ハキム病(iNPH)はパーキンソン病よりも、すり足?小刻み?開脚歩行になりやすく、上肢と下肢の連動が悪い。
- パーキンソン病はハキム病(iNPH)よりも、上肢の前後?左右への動きが小さい。
- 頚椎症は、ハキム病(iNPH)やパーキンソン病よりも、上肢?下肢ともに前後?左右への動きが良く、上肢と下肢の連動も良いが、健常者よりは悪い。
研究の意義と今後の展開や社会的意義など
マーカーレス?モーションキャプチャー?AIスマートフォンアプリTDPT-GTは、従来のモーションキャプチャーシステムよりも簡便性に優れており、病院や介護の現場で定量的な歩行解析を行うことができる。これにより、従来の歩行解析では困難であったハキム病(iNPH)、パーキンソン病、頚椎症、脳卒中など転倒リスクの高い疾患の患者に対して、外来診療前や入院前、施設への入所前に、簡便に歩行の状態や転倒リスクを数値化することができるようになると考えている。
【用語解説】
※1ハキム病:従来、特発性正常圧水頭症(idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus: iNPH)と呼ばれてきた病気と同じ病気。歩行障害、バランス障害、認知障害、切迫性尿失禁の症状が出現し、進行すると介護が必要となる高齢者に多い病気。加齢による脳室拡大だけでなく、シルビウス裂?脳底槽も同時に拡大し、高位円蓋部?正中の脳溝が圧迫されて狭くなる特徴的な画像所見Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus (DESH)で発見される。
※2 パーキンソン病:黒質のドーパミン産生細胞の障害で、手足が震え、動作が遅くなり、関節の動きが悪くなり、バランスを保つことが難しくなり、転倒しやすくなる病気。ハキム病とすり足、小刻みの歩き方は似ているが、足が左右へ広がらない閉脚歩行、すくみ足が出現しやすく、手の振りが小さくなる特徴が知られている。
※3 3次元相対座標:ヘソを中心として、顔のある面を前面、お尻の面を後面、頭を上面、足を下面となるよう全身をXYZ空間上に設定。ヘソから頭までが1, 足先までが-1の相対座標で、身長には影響を受けない。
※4 矢状断面:身体を真横から観察した前後の足の動きが分かる断面。
※5 冠状断面:正面から観察した両手を横に広げた動きが分かる断面。
※6 軸位断面:頭の真上もしくは真下から観察した前後、左右の足の動きが分かる断面。
【研究助成】
?日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) [研究課題名:脳循環代謝シミュレーションモデルによる正常圧水頭症の病態解明]
?日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) [研究課題名:脳脊髄液の新規流体解析を用いた正常圧水頭症の病態解明]
?文部科学省 スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム(次世代超高速電子計算機シ
ステム利用の成果促進)「「富岳」で実現するヒト脳循環デジタルツイン」(JPMXP1020230118)
?大阪ガスグループ福祉財団 [研究課題名:集団行動制限環境下においても高齢者の健康?日常生活動作をリモートで見守るAIシステムの導入]
?公益財団法人大樹生命厚生財団 [研究課題名:特発性正常圧水頭症患者のアルツハイマー型認知症併存を判別する認知機能評価の確立]
【論文タイトル】
Development of a Gait Analysis Application for Assessing Upper and Lower Limb Movements to Detect Pathological Gait
【著者】帝釋 敦仁1)、山田 茂樹1, 2)、伊関 千書3, 4)、青柳 幸彦5)、上田 茂雄6)、近藤 敏行4)、小林 吉之7)、佐橋 健斗8)、清水 陽子8)、山中 智康1)、谷川 元紀1)、太田 康之4) 、間瀬 光人1)
所属
1;足球彩票大学院医学研究科 脳神経外科学講座
2;東京大学 生産技術研究所
3;東北大学大学院 高次機能障害学
4;山形大学 足球彩票 内科学第三講座 神経学分野
5;株式会社デジタルスタンダード
6;信愛会脊椎脊髄センター
7;国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
8;足球彩票大学院医学研究科 リハビリテーション医学分野
【掲載学術誌】
学術誌名:Sensors
DOI番号:10.3390/s24196329
Website: https://www.mdpi.com/1424-8220/24/19/6329
PDF Version: https://www.mdpi.com/1424-8220/24/19/6329/pdf
※1ハキム病:従来、特発性正常圧水頭症(idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus: iNPH)と呼ばれてきた病気と同じ病気。歩行障害、バランス障害、認知障害、切迫性尿失禁の症状が出現し、進行すると介護が必要となる高齢者に多い病気。加齢による脳室拡大だけでなく、シルビウス裂?脳底槽も同時に拡大し、高位円蓋部?正中の脳溝が圧迫されて狭くなる特徴的な画像所見Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus (DESH)で発見される。
※2 パーキンソン病:黒質のドーパミン産生細胞の障害で、手足が震え、動作が遅くなり、関節の動きが悪くなり、バランスを保つことが難しくなり、転倒しやすくなる病気。ハキム病とすり足、小刻みの歩き方は似ているが、足が左右へ広がらない閉脚歩行、すくみ足が出現しやすく、手の振りが小さくなる特徴が知られている。
※3 3次元相対座標:ヘソを中心として、顔のある面を前面、お尻の面を後面、頭を上面、足を下面となるよう全身をXYZ空間上に設定。ヘソから頭までが1, 足先までが-1の相対座標で、身長には影響を受けない。
※4 矢状断面:身体を真横から観察した前後の足の動きが分かる断面。
※5 冠状断面:正面から観察した両手を横に広げた動きが分かる断面。
※6 軸位断面:頭の真上もしくは真下から観察した前後、左右の足の動きが分かる断面。
【研究助成】
?日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) [研究課題名:脳循環代謝シミュレーションモデルによる正常圧水頭症の病態解明]
?日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) [研究課題名:脳脊髄液の新規流体解析を用いた正常圧水頭症の病態解明]
?文部科学省 スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム(次世代超高速電子計算機シ
ステム利用の成果促進)「「富岳」で実現するヒト脳循環デジタルツイン」(JPMXP1020230118)
?大阪ガスグループ福祉財団 [研究課題名:集団行動制限環境下においても高齢者の健康?日常生活動作をリモートで見守るAIシステムの導入]
?公益財団法人大樹生命厚生財団 [研究課題名:特発性正常圧水頭症患者のアルツハイマー型認知症併存を判別する認知機能評価の確立]
【論文タイトル】
Development of a Gait Analysis Application for Assessing Upper and Lower Limb Movements to Detect Pathological Gait
【著者】帝釋 敦仁1)、山田 茂樹1, 2)、伊関 千書3, 4)、青柳 幸彦5)、上田 茂雄6)、近藤 敏行4)、小林 吉之7)、佐橋 健斗8)、清水 陽子8)、山中 智康1)、谷川 元紀1)、太田 康之4) 、間瀬 光人1)
所属
1;足球彩票大学院医学研究科 脳神経外科学講座
2;東京大学 生産技術研究所
3;東北大学大学院 高次機能障害学
4;山形大学 足球彩票 内科学第三講座 神経学分野
5;株式会社デジタルスタンダード
6;信愛会脊椎脊髄センター
7;国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
8;足球彩票大学院医学研究科 リハビリテーション医学分野
【掲載学術誌】
学術誌名:Sensors
DOI番号:10.3390/s24196329
Website: https://www.mdpi.com/1424-8220/24/19/6329
PDF Version: https://www.mdpi.com/1424-8220/24/19/6329/pdf