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数理モデルを用いた紫外線殺菌の基本原理に関する研究



活動の概要 コロナウイルスを含む様々な病原性ウイルスや細菌を殺菌する手法として,薬液を利用しないで広範囲な殺菌が可能な紫外線殺菌技術が注目されています。この紫外線殺菌は,従来,照射線量(紫外線強度×時間)が同じであれば殺菌率は同じである,と考えられておりました。しかし,私たちの今までの研究において,この定説が成立しないことを,大腸菌を用いた紫外線殺菌実験で実証しました。具体的には,照射線量が一定の条件下で,紫外線照射強度を大きく変えて大腸菌の殺菌率を精密に評価してみると,紫外線強度が弱くて長時間殺菌した場合のほうが,紫外線強度が強くて短時間殺菌した場合よりも,殺菌効率が大きいことが判明しました。これら一連の実験結果を,数学の最先端手法である確率微分方程式を用いて解析することによって,新たな紫外線殺菌メカニズムの存在が明らかになりました。
活動の時期 2022年12月 論文発表。
2020年から2024年を研究開発期間として予定。
関連URL /press-news/202303031000/
https://www.nature.com/articles/s41598-022-26783-x
researchmap URL https://researchmap.jp/read1253163
関連する論文 ?Kohmura, Y, Matsumoto, T. et al. Scientific Reports 10, 17805 (2020).
?Tatsuno, I, Matsumoto, T. et al. Scientific Reports 11, 22310 (2021).
?Matsumoto, T, Hasegawa, T. et al. Scientific Reports 12, 22588 (2022).
期待される効果?今後の展望 同じ照射線量でも低強度の紫外線を長時間照射することで大きな殺菌効果を引き出せるという今回の知見は,紫外線殺菌時に人体への紫外線照射線量を低減できるため(1日に人体に浴びて良い紫外線照射線量は法律で規定されている),今後の紫外線を用いた居住空間および病室の紫外線殺菌技術および装置開発に大きく貢献できるものと考えております。
所属 芸術工学研究科 産業イノベーションデザイン領域
氏名 松本 貴裕
専門分野 量子エレクトロニクス,光物性,真空ナノエレクトロニクス,フォトバイオロジー

図版

照射線量を10 mJ/cm2(照射波長は265 nm)で一定にした場合の,大腸菌殺菌効果の紫外線強度依存性。(a) 紫外線強度10 mW/cm2で1 sの場合の大腸菌数(90%の殺菌率),(b) 紫外線強度0.1 mW/cm2で100 sの場合の大腸菌数(99%の殺菌率)。(c)は(a)と(b)のプレートで計測された大腸菌数を棒グラフにしたもので(a)は約550個,(b)は60個。紫外線殺菌する前の大腸菌数は約6000個。

図版

紫外線照射により,ウイルスや細菌内で活性酸素が生成され,この活性酸素がウイルスや細菌のDNA及び脂質層を破壊して殺菌することを示すモデル図。紫外線殺菌には (i) DNA(RNA)の破壊,および (ii) 活性酸素によるウイルスや細菌の死滅,の2つのメカニズムが存在します。確率微分方程式を用いると,この2つのメカニズムが関与する割合を定量的に評価することが出来ます。